一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

「どうしてと訊かれてもな。子どもの頃はよくここに来ていた。母の病院も近かったし、おまえの親父が絵を描いてるところを見てるのが楽しかったからな」

 どくんと胸が跳ねた。これまでの雅臣とのやりとりが、フラッシュバックのように一気に頭を駆けめぐる。

 本邸の豪奢な応接ルームではじめて対峙したとき、まるで大魔王と向き合っているみたいだと思ったこと。

 絵が必要なら一億円を支払えと言われたこと。

 病院の広いカンファレンスルームで、私とお母さんにその絵を見せてくれたこと――。

「待って。じゃあ、あなたは、あの絵のことを前から知っていたの……?」

 私が二條家に忍びこむきっかけとなった絵。

 父が、唯一描いた母の絵。

「当然だ。あれは、俺にとっても忘れられない絵だからな」

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