一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
さらりと口にする雅臣を、信じられない気持ちで見上げた。私の目線には気づかず、彼はどこかうれしそうに続ける。
「あれは『母性』を象徴した作品だ。子を抱く母の微笑は、当時の俺にとって、なによりも心の慰めになっていた」
ほんの少し寂しそうにつぶやく彼の目には、廃屋となったアトリエが映っている。
父があの絵を描いたのは、私がちょうど生まれたころだ。つまり二十五年前。――当時の雅臣は、たしかお母さんを亡くしたばかりだった。
「お前の父親――瀬戸口アキラは、俺に言った」
倉庫から私に目を移し、雅臣は微かに目もとをほころばせる。懐かしそうに、私の知らない、私の父との思い出を口にする。
――坊ちゃん。お母さまを亡くされてお気の毒に。この絵でよければ、いつでも見に来てくださいよ――