一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
振り返った少年の顔と彼が口にしたセリフがくっきり脳裏によみがえった途端、笑ってしまった。
「なんて偉そうな」
私のお父さんが描いた絵なのに。
ふふっと肩を揺らす私を不思議そうに見下ろして、雅臣はさらに続けた。
「母が他界した後も、学校が長期休みになると坂城やほかの使用人に頼んでしょっちゅうここに連れてきてもらっていた」
私がお母さんに連れられてアトリエに来ていたころ、雅臣もまたこの場所を訪れていたのだ。でも、交わったのはほんの一瞬だけ。まるで時空の歪みに入り込んでしまったみたいな、獣道でのめぐりあい。
そして雅臣は、飽くことなく私の父が描いた絵を眺めていた。幸か不幸か、絵のモデルである母本人に出会う機会はないまま。
「失った母親の姿を重ねるようにあの絵を眺めていたが、今思うと、あれは憧れに近い気持ちだったな」