一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

 不敵な笑みをこぼし、彼は冗談めかして言う。

「お前の母親は、俺好みの美人だったからな」

「え……」

 心臓が、ひときわ大きな音を立てた。

 あの絵に描かれていた若かりし頃の母は、今の私とそっくりで――。

 さわりと風が吹き抜ける。木々を揺らし、地面に複雑な模様を描いた木漏れ日が踊る。

 くっきりとした二重まぶたに鼻筋の通った石膏像みたいに端正な顔立ち。深い茶色の瞳に見下ろされて脳裏をよぎるのは、薄紅の花びらが舞い散るはじまりの季節だ。

「あの桜が舞う日。お前が空から降ってきたとき、俺がどれだけ驚いたかわかるか?」

 なんだろう。胸が詰まる。

 あまりにもたくさんの感情が複雑に混じりあって、口にしたい言葉が見つからない。

「ずっと憧れに留めていた女を具現化させるほど、俺は思い詰めていたのかと」

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