一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
大きな手がくしゃっと私の前髪を掻き上げる。ためらいのない手つきに、どきりと胸が跳ねた。同じ男の人の手なのに、沢渡さんとは全然違う。ごつごつと骨ばっていて温かくて、どういうわけか心がほぐれる。
そして今さら気づいた。沢渡さんに抱きしめられて、私は恐怖を感じていたのだ。強い力に押さえつけられ、体の自由がきかなくなる恐ろしさを目のあたりにした。
「……泣くな。あの程度で」
目もとを両手で覆ったまま、唇を噛んだ。
「泣いて、ない」
涙の筋が頬をつたっていく。自分がどれだけ無力な人間なのかを、思い知らされた気がした。
長年住んでいた場所をあっさり取り上げられ、好きでもない会社の人に簡単に身動きを封じられる。お金も権力もなくて、最愛の母に満足な治療も受けさせてあげられなかった。
私はなんて弱い人間なんだろう。