一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
悠然と座っている二條正臣をそっと見上げる。
どうして起こさなかったんだろう。
もしかして……寝かせてくれた?
「なんだ、じろじろ見て」
「い、いえ。すみません、降りましょう」
ドアを開けようとした手を掴まれて、振り返る。思いがけず端正な顔が接近していてどきりとした。固まっている私に唇が近づく。
暗がりではっきり陰影をつくる彫りの深い目もと。その鋭い目で見つめられると、魔法でもかけられたように動けない。
うつくしい輪郭を帯びた唇が、私の目じりに触れ、頬に触れた。涙が乾いて突っ張っていたところをなぞられて、ひときわ胸が反応する。
「な、なにを」
頬を押さえる私を見下ろし、二條雅臣は平然と口にした。
「……消毒だ。妙な菌を持ちこまれては困る」
絶句している私から目を逸らし、彼はドアを開けて外に出た。二條家の広大な敷地が、群青の空の下に広がっている。車内にいる私に手を差し出して、二條雅臣は唇の端だけを器用に持ち上げた。
「ようこそ、二條家へ」