一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
そういえば、はじめて見たときも彼は庭園の隅で女の人といちゃついていたし、私を抱えて連れて入ったのも本邸だった。
私の言葉には答えず、楓さんは時計を見上げた。
「お母さまのお見舞いは、いつもの時間に行かれるんですか?」
「はい。五時くらいに出ます」
「では車を準備させますね」
「いえ、いりません! 電車で行きますから!」
慌てて両手を振ると彼女は「そうですか」と目をぱちくりして答えた。
どうしても経緯が説明できなくて、私はまだ母に仕事を辞めたことを伝えていなかった。だからどんなに暇を持て余していても、早い時間からお見舞いに行くことはできないし、病院前まで黒塗りの車で乗りつけるなんていう目立つ行いもできない。