一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
非日常の光景に気を取られたせいで、ぐらりと体が揺れた。慌てて目の前の細い枝につかまった拍子に、たくさんの花弁が一斉に落ちる。
あっと思った瞬間、顔を上げた女性と目が合った。
「き……きゃあ! 誰っ⁉」
「あっ」
騒がれたらまずい!
「あの、私は怪しいものじゃなくて」
出かかった言葉が途切れた。
女性の視線を追うように、男性がこちらを振り仰ぐ。
降り注ぐ花びらのひとつひとつが光の粒のように見える。それを一身に浴びた男性に、くぎ付けになった。
深く切れ込んだ二重まぶたと、まっすぐのびた鼻筋。絵画デッサンのお手本みたいにくっきりした顔立ち。
一瞬目が合っただけでも脳に焼き付けられるようなバランスのいい顔が、ふいにぶれた。
焦ったように目を見開く彼が、スローモーションで見える。
「あ、おい!」