一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
掴まっていた小枝が折れて、体が前のめりに傾いでいく。ほかの枝に掴まろうと伸ばした手はあっけなく空を切った。
「きゃああ!」
女性の悲鳴がやたらと遠くに聞こえる。私のほうが叫ぶべき状況なのに、なぜか冷静な気持ちだった。頬を切る空気がやたらと鮮明に感じられる。
落ちる――
目をつぶる直前、あわてたように両手を広げる男性の姿が見えた。
「ぐっ」
くぐもった声が間近に響き、体に衝撃が走る。でもそれは、固い地面にぶつかるよりずっと柔らかな感触で、一瞬何が起きたのかわからなかった。
「雅臣!!」
女性の甲高い声に瞼を開けると、目と鼻の先に男性の顔があった。芝に倒れ込んだ彼の広い胸にのしかかっている状態で、思考がいったん停止する。
「った……」
「す、すみません!」