負け犬の傷に、キス


その隙間にお弁当を広げる。

箸の他にスプーンとフォークを常備しておいて正解だった。これでふたりでも食べられる。



「いただきます」



草壁くんが箸でたまご焼きをつまんだ。


味はどうかな。


パクリと食べた頬がゆるんでいく。




「ん! おいしい!」


「よかったぁ……」


「もしかしてこれ津上さんが作ったの?」


「うん、そうだよ。草壁くんの口に合ってよかった」


「すごいね! 料理上手なんだ」


「そ、そんな、上手じゃないよ! 簡単なものしか作れないし!」




仕事で忙しい両親を支えようと、弟の宵と一緒にご飯を作るようになって早5年。



初めは、小学生になりたての宵と中学生になりたてのわたしで力を合わせても、見た目も味もあんまりいい出来にはならなくて苦戦したっけ。


今では得意料理が増えて、時間もかからなくなった。



こうして家族以外の人に食べてもらうのは初めて。


おいしいって褒めてもらえて

これまでの頑張りが報われた気がする。




「謙虚だなぁ。ほら津上さんも見てないで食べなよ」


「へ? ……はむ!」


「自分が作ったものはちゃんと自分も食べないと」




口に放り込まれたのは……ミートボール、かな。

うん、味付けばっちり。おいしくできてる。



って、今の、間接キスじゃ……!?


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