負け犬の傷に、キス


あっ、そうだ!

と声を上げ、自分の着ていたカーディガンをわたしに羽織らせた。


今日の草壁くんはブレザーを着ていないからシャツ一枚になる。




「それ着て? そうすればバレない!」


「で、でも……草壁くん寒くない?」


「全然! 天気いいし、ちょうどいいよ」




黒のラインの入ったカーディガン。

洗剤の匂い。草壁くんの温度。


ちょっと泣けてくる。



当たり前の優しさ。
当たり前の笑顔。

それがどれだけの強さなのか、痛いくらいわかる。



わたしは、また、救われた。




「ありがとう」


「俺のほうこそありがとう。お弁当すっごくおいしいよ。食べられてラッキー!」




ふたりでひとつのお弁当はあっという間に平らげてしまった。


きれいに食べきった空っぽのお弁当箱をはさんで「ごちそうさま」と笑い合う。




「津上さん、こっち。行こ」




ベンチから立ち上がった草壁くんの手に引かれるがまま、カバンを持って公園をあとにする。



大きな手。

先を行く背中も大きいな。



草壁くんは追手を警戒しながら裏道を通っていく。


弱々しく握り返したこと、気づいてほしいけど気づいてほしくない。


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