咎人と黒猫へ捧ぐバラード

「……!」

自分を見下ろすこの男を真吏は知っていた。
朝霧修二。
警察署署長をしている男であり、殺人事件の加害者の父親でもある男だ。

「なぜ君は、そこまで関わりたがるのかね」

ヒューマノイド修理工場の責任者である勝部も朝霧の傍らに立ち、真吏を見下ろしている。

「かわいそうになあ。息子の邪魔をしただけで、こんなことになって」

勝部晴久は汗を拭きながら真吏と有道に目を向ける。

「護衛屋を雇ったらしいが、何の役にも立たなかったようだな」

真吏の瞳が眼前の男達を睨んでいる。
こんな連中に屈したくない。

「女の分際で、余計なことに首を突っ込むから、こうなる。とはいえ、おれもそこまで鬼じゃない」

朝霧か真吏を見下ろしている。

「記事を取り下げろ。そうすれば無かったことにしてやる」
「……今さら無駄よ。原稿はもう出版社に渡してある。あなた達のことも記してあるわ」

隣で転がっていた有秀が目を覚ました。
見上げた先に真吏と目が合う。
口枷で真吏同様、口元を塞がれていたが、バイオレットの瞳がアーチ型に微笑する。
無事みたいだね、という少年の声が聞こえたような気がした。

「不幸だったな。居合わせなければ、同じ運命をたどらずに済んだものを」

朝霧は少年がアキラルの代理人である事は知らないのだろうか。
ヒューマノイドが有秀の口枷を外す。

「そうだな」

有道ではなく秀道が口を開いた。

「だが、こうする必要があったんでね」

まるで連れ去りを予見していたかのような台詞である。
朝霧の脳裏に疑問符が浮かび何やら危険信号を感じとった、その時である。
有秀から事前に取り上げた携帯型電話の着信音が鳴った。

「!」

朝霧はそれを無視して電源を切る。
切ったはずだ。
しかし電源を切ってもどのボタンやパネルを押しても、着信音を止める事は出来ないのだ。
業を煮やした朝霧はを近くのヒューマノイド培養液に投げ入れた。
しかしゲル状の培養液の中でも鳴り止むことはなく、着信音を鳴らし続けている。

「あれは何だ!?」

朝霧が声を荒げた時、ヒューマノイド培養室のドアが開かれた。
そして何と厳重なセキュリティーで固められたドアが、呆気なく開いたのである。

扉の向こうから長身の黒ずくめの男が現れた。

「貴様……!?」
「着信音がうるさそうだな」

アキラルが培養液に沈んだまま、着信音を鳴らし続けるスマホに向けて手を振る。
何かの信号を受け取ったかのように途端に着信音は鳴り止んだ。

「おれ以外には止められない。おれの脳信号が、スイッチになっているからだ」

彼は真吏とアルに近づくとナイフを取り出し体を束縛していた拘束具を外した。

「こいつは無事だぞ」

少年の言葉に鷹人は頷く。
真吏は呆気に取られた後、怒鳴りたい気持ちを必死に押さえ込む。
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