咎人と黒猫へ捧ぐバラード

「貴様か。噂は訊いているぞ」

朝霧は鷹人を見つめ、ニヤリと笑った。
鷹人は無言だ。

「私は警官だ。ここの不法侵入で逮捕する事も出来る」

朝霧が合図をすると真吏と少年を捕らえていたヒューマノイド二体が、ゆらりと前に出る。

「お前を逮捕する、凶悪犯。抵抗する場合は殺す」

真吏は声をあげたかったが新たな口輪を噛まされたため、出来なかった。

警察、軍事用ヒューマノイドは特殊だ。
様々な武術、体術を知能チップに組み込んであり、ボディもそれ専用だ。
様々な凶器、銃器に耐えられるように造られており、爆弾にも耐えうる防御力を施されている。
先日、真吏が襲われた時は一体だった。
今回は二体。

いくら強靭な青年でも、殺されてしまうように思われた。

「抵抗しろ、犯罪者。せいぜい踊れ」

朝霧が笑った。

それを合図にヒューマノイドが青年に襲いかかる。
真吏は思わず目を背けた。

「そうするとしよう」

鷹人がぼそりと漏らす。
襲いかかってきたヒューマノイドが青年の躯に触れる直前。
鷹人の躯はヒューマノイドより高く空中に舞い上がる。
成人男性の平均身長のヒューマノイドの頭上にジャンプで飛んでいる。

「!」

人間のあり得ない動きだが、そこはヒューマノイドだ。
即座に反応する。
だが鷹人の方が早い。

両足を繰り出すと唸りのある空気を切る重い音がして、ヒューマノイド二体の顔面に青年の靴底がめり込む。
そのまま蹴り倒す要領で空中で身を回転させると、鷹人は着地する。
恐るべき身体能力だ。
ヒューマノイド二体は顔面を潰され、床に背中から叩きつけられる。

凄まじい勢いのそれは、ヒューマノイドの腕や脚が千切れ吹き飛ぶほどだ。
衝撃でひしゃげた背中はコンクリートの床にめり込んでいる。
それでも立ち上がろうとしたが、力尽きたように動きを止めた。

「ば、ばかな……!」

朝霧の顔を冷や汗が流れる。
この二体のヒューマノイドは、機動隊でテロ対策にも使用されている強固な代物だ。
生身の人間か倒せるはずがない。
だが今、現実にそれが否定された。

「ダンスの相手が、いなくなった」

現実に倒せるはずがない相手をいとも簡単に倒した鷹人は、叩き潰したヒューマノイドに視線を落とす。

「この前のヒューマノイドの方が、よく出来ていたな」

真吏を襲ったヒューマノイドの方が高性能だと、鷹人は云った。

「化け物め!」

朝霧の口から不快な音が聴こえる。
歯ぎしりをしているようだ。

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