咎人と黒猫へ捧ぐバラード
『待っていました。高竹真吏』

女の声がした。

(レイ)です。私の一部は確かに返してもらいました。先の暴走したAIは(ネツ)です。熱によって失われたパーツも戻りました。よって人間をお返しします』

黒猫ネマが立ち上がりそわそわしている。
あの青年によく見せていた仕草だ。

『ヒューマノイドを素手で倒せはしなくなりました。普通の人間です』

壊れた培養缶の奥の隠れた培養缶が、培養終了のランプを点滅させている。
黒猫が走っていく。
扉が開き、大量の蒸気が立ち上る。
その中から人影が表れ身を屈める。
湯気の中からやがて肩に黒猫を乗せた青年の姿を見つけた。

「高竹真吏」

真吏は涙ぐむ。

「フルネームで呼ばないで」

真吏は赤ん坊を抱いたまま青年に近づき、青年もまた真吏に近づいた。


「生まれ変わっても、また私を好きになってくれるのよね?」
「ああ。何度でも」

青年は自分の子供と妻に腕を回す。
肩から飛び降りた黒猫は夫婦の足元に躯や顔を擦り付け、喉を鳴らしていた。
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