咎人と黒猫へ捧ぐバラード
鷹人は護衛業を廃業し志鳥の喫茶店で本格的に働き始めた。
あくまで店を引き継ぐための修行と、現経営者に釘を刺されている。
鷹人は厨房でヒューマノイド清白(スズシロ)と供に調理していた。
店内には真吏の他、有秀と注文待ちの(はな)がいる。

「年上にこだわりがあったはずなのに、年下君と一緒になるとはね」

真吏が赤ん坊を抱いている。
彼女は喫茶店を手伝うかたわら、仕事量は減らしたもののジャーナリストとして活動している。

「お父さんがいなくとも、ぼくが育ててやったんだがな」

有秀がミルクを慣れた手つきで作っている。
皮肉まじりの口調の彼が一番、赤ん坊を可愛がって面倒をみているようだ。

「温度も完璧だぞ」

出来上がったミルクをテーブルに一端置くと真吏の手から赤ん坊を、さっさと奪い、だが優しくあやしながらミルクを与え始めた。

「旨いか?たくさん飲めよ」
「弟くんは、すっかり保育士さんね」

注文待ちの華が感心している。
有秀は育児のベテランのようだ。

「それなんだよな」

有秀が赤ん坊を見つめながら云った。

「いまだに保育士の方が良かったんじゃないかと、思う時があるんだよなあ」

高校卒業後、彼は看護学校へ進学した。
真吏の妊娠から出産、育児の流れに少年は感銘を受け将来の職業に結びつけることを決めた。

「有秀君だったら、保育士さんにもなれるんじゃない?」
「そうか?やってみるかな」

優しく真剣な眼差しでミルクを与える少年は、口は悪くとも根は穏やかである。
明るい兄の面影を残しつつ青春を謳歌しているようだ。

「お待たせしました」

清白(スズシロ)が華のテーブルにパンケーキと紅茶のセットを運んできた。
ミントの葉が添えてあり、美しい盛り付けだ。
紅茶はガラスのティーポットに淹れてある。

「ありがとう。あなたも、だいぶ馴染んだわね」
「はい。マスターのおかげです」

その志鳥は今日はいない。
今日に限らず外出している時間が増えたようだ。

「もう引退?」

華がパンケーキを切り分けで口に運ぶ。

「いえ。それはまだですが、渕脇会長と新しいヒューマノイド開発をされるそうです。特別顧問だとか」

新しいヒューマノイドを開発しているという。

「悪いオジサン科学者がふたり、何か企んでいるわけね」

真吏がため息をつくと華がカカか、と笑った。

「まあ料理の味も、当の昔にお兄ちゃんに抜かれているし。ボケ防止にちょうどいいんじゃない?」
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