愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「……っ!?」


その時鈍い音が聞こえ、思わず耳を塞いで目を閉じる。
心の中で瀬野を恨みながら。


耳を塞ごうとも聞こえてくる呻き声。

どうなってるのか全くわからずに、ただただその場に突っ立っていると───



「…きゃっ!?」


突然後ろから誰かに抱きつかれる。
少し乱暴な行動に、すぐ瀬野じゃないことを理解する。

思わず目を開けると、視界に映ったのはなんとも衝撃なもので。


余裕そうにしていたはずの男たちが、気づけば呻き声を上げて地面に倒れ込んでいる。 

立っているのはただひとり瀬野だけだった。
いや、正確には───


「く、来るな…!
来たらこの女がどうなるかわかってんだろうな!?」


私を捕らえた敵の男がひとり、残っている。
あの時私を逃さないからこんなことになるのだ。


もしかしたら瀬野は私を助けようとすらしないんじゃないかと不安になる。

そうなれば私は終わったようなものだ。


「…………」

ただただ瀬野は落ち着いていて。

その瞳が私たちを捉えた時、思わずゾクッと全身が震え上がった。


光を宿さないその瞳は、一体何を映しているのだろうか。



「まだ抵抗するつもりなの?奇襲でこの程度とか、本当にこれで俺に勝てると思った?」

傷ひとつないその顔はあまりにも綺麗で。
見惚れてしまいそうだ。


「く、来るな…!」


瀬野はゆっくりと私たちに近づくけれど。
私が敵より前に出されているというのに、どうするつもりなのだ。

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