愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



思わず瀬野を見上げる。
けれど彼の表情は変わらない。

暴走族の一員であることは聞いていたけれど、まさか瀬野が───


総長、だなんて。
確かに目の前の男は“総長”だと言った。

けれど総長って確か、トップという意味があったのではないか。


つまり瀬野は、その族のトップということ…?


「せ、瀬野…」
「怖かったら目を閉じてて」

そうじゃなくて。
どうして冷静でいられるのかが不思議だ。


「んー?そちらは総長様の彼女かなぁ?
奇襲に巻き込まれて可哀想に」


奇襲。
だからそんなにも余裕そうなのか。

けれど瀬野までも余裕そうでいられるのかわからない。

これは絶体絶命ではないかと。


「君たちは煌凰(こうおう)の手下かな」
「ハッ、何ふざけたこと言ってんだよ」

「事実、君たちは併合されたじゃないか。
結局は欲の塊なんだね」

「併合?違う、同盟を組んだだけだ。俺たちは雷霆(らいてい)の一員で煌凰の手下なんかじゃねぇよ!」


これは挑発だ。
相手を熱くさせるためのやり方。

けれど怒りは時に人を強くもさせる。
このやり方が失敗したら瀬野はどうなるのかわかっているのか。

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