愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「大丈夫?
何かあったの…?」

首を傾げて優しい声で聞くと、彼は一度目を閉じて安心したように息を吐いた。


そして───


「わっ…!?」

突然瀬野が私を抱きしめてきた。
それも昨日よりずっとずっと強くてきつい抱きしめ方。


「せ、瀬野くん…!?」

なんて驚いた声をあげる中で、内心は苛立ちを覚えていた。


昨日から何なんだこいつは。
簡単に触れてきて、意味がわからない。

まず寝る前までの礼儀はどこに行ったのだ。


本当は『やめて』と突き放してビンタを喰らわせてやりたい。

その気持ちをぐっと堪えるのは、今の私が“偽り”だからである。



「良かった…」
「……え?」

けれど彼は心底安心したように。
ホッとした様子でそう言った。


「起きたら隣にいなかったから…不安で」


『はい?』と言いたくなる気持ちを抑え、口を閉じる。
今日の瀬野もまたいつもと様子がおかしかった。


起きた時に私がいなかったからなんだ。
何かあったのかと心配すること?


「ごめんね、お弁当作ってたんだ」
「……お弁当?」

「そう!
今日は瀬野くんの分も作ったんだよ」


少し抱きしめる力が弱まった時、さりげなく瀬野から離れる。

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