愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「でも莉乃の母親はすごいよ。裏切られても立ち直って、今は幸せに暮らしてる。

きっと莉乃も大切に育てられてるんだろうけど、莉乃は疎外感を抱かずにはいられないんだろうね」


だから瀬野は莉乃ちゃんのそばにいるのだ。
彼女を優先して、いつも優しく受け入れて。



「莉乃は言うんだ、俺が唯一の理解者だって。
俺しか頼れないって。

確かに父親が同じで、お互いに捨てられた。
だから俺も莉乃を突き放すようなことはできない」


唯一の理解者。

同じ経験をしたふたりの間には、見えない何かで繋がれている。


「けど───」

瀬野がきつく私を抱きしめる。
少し苦しいけれど、私は黙ってそれを受け入れた。

「俺はずっと。莉乃のことを羨ましいと思ってた。
だって温かな家庭を自ら放棄しているんだ」


同じ経験をしたけれど、ふたりの“その後”はこんなにも違うのだと。

瀬野は莉乃ちゃんを受け入れる中で、苦しみを抱いていたようだ。

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