愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「でも一度、翼くんに頼んでみます。
このまま何もしないで終わりたくないんです」
じっと風雅さんの目を見つめる。
しばらくの間沈黙が流れた後、彼が小さく息を吐いた。
「なら少し待ってな。
田中さんと掛け合ってくる」
「……え」
「多分オッケーもらえると思うから」
それだけ言うと風雅さんは田中さんの元へと向かい、会話を交わしていた。
かと思えば、ほんの数分で私の元へと戻ってきて。
「やっぱりオッケーもらえた」
「オッケー…ですか?」
「今日はもう上がっていいって」
「えっ…」
「翼に会いたいんだろ?
ちょっと連絡とってくるからここで待ってろ」
風雅さんは一度笑みを浮かべ、カウンターの奥へと入ってしまう。
どうやらバイトを早上がりさせてもらったらしい。
ただ翼くんと連絡をとってくれるだけで良かったのだけれど───
「今日は翼もアジトにいるって」
「あ…ありがとうございます」
「じゃあ行くか。今日は車で来てるし」
「え、そんな…風雅さんも来てもらうだなんて悪いです」
「何言ってんだよ。アジトのある場所は治安が悪いんだ、川上さんに何があってからじゃ遅い。
そのために早く上がらせてもらったんだから行くぞ」
わざわざ私のために早く上がってくれたようで。
なんだか申し訳なくなる。