愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
ゆっくりとドアを開けて中を確認した瀬野は───
安心したように息を吐いて、私の手を離した。
ようやく緊張から解放されたようだ。
けれどその理由が一体何なのかわからない。
「良かった、今日はいないみたい」
「いない…?」
「寒いから中入ってね」
「あ、うん…」
中に通されると、リビング以外の部屋は全て閉められていて。
リビングは特に散らかっておらず、綺麗に片付いていた。
「じゃあソファに座って待ってて。
すぐ着替えてくるから」
瀬野は私をソファに座るよう促して、リビングの暖房をつけるなり自分の部屋へと向かう。
ポツンとひとり、リビングに取り残される。
そこは自分のアパートの部屋よりも広く、両親がいたあの頃や叔母さんの家にいた時を思い出した。
自分の部屋には滅多に行かず、ほとんどリビングで過ごしていた小学生時代。
けれど叔母さんの家に住まわせてもらうようになってからは、ご飯の時や家事を手伝う時以外はほとんどリビングに行かず部屋に篭っていた。
もうあの場所には帰りたくない。
「……やめよ」
余計なことは考えるべきではない。
自分を弱くするだけだと。