愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
やっと一息吐いた私。
昨日からずっと感情の変化が激しくて精神的に疲れた。
今日は睡眠時間も少なかったし、学校に着いたら寝てしまおうか。
学校に着くのは恐らく7時半前だ。
部活の朝練くらい早いというのに、教室にいてもやることがない。
それでも瀬野と同じ教室にいるのはリスクが高い。
いっそのこと、保健室にでも行こうか。
それ以上瀬野と会話をすることなく駅に着く。
解放されるまであと少し。
「本当に誰もいないね。目撃者のひとりやふたり、いてくれても良かったのに」
「そ、それだと誤解されちゃうよ瀬野くん」
念のため。
念のため、表の自分で瀬野に接する。
油断したら毒を吐いてしまいそうだ。
「誤解された方が俺は嬉しいけどな」
「…私なんて瀬野くんと相応しくないから」
頑張れ、学校まであと少し。
偽る私を楽しそうに見ている瀬野に腹が立つけれど、ここは必死に我慢する。
「相応しいとかそういうの、関係ないと思うけどな。俺、川上さんに求められたら喜んで受け入れるかも」
何言ってんだか。
誰が瀬野を求めてやるものか。
彼を求めるくらいなら、他の人に寄り添った方がマシである。
「結構本気だよ、俺」
「瀬野くんは優しいね」
ニコニコ笑ってその場を凌ぐ。
簡単に裏が出ると思うなよ。
何年このやり方で生きてきたと思うのだ。
「あっ、学校見えてきたよ瀬野くん」
その時ひとりの生徒が自転車で横を通った。
幸い同学年ではない、地味な生徒だったため救われた。
こんな風にいつ誰が見ているかわからないのだから、余計に注意を払わないと。
「随分と嬉しそうだね」
「学校が好きだからかなぁ」
わざわざ聞くこともないだろう。
瀬野と一緒にいなくて済むから嬉しいということなんて、彼自身わかっているはずだ。