ティアドロップ(短編)

地面が揺れてると思ったら、震えているのは自分だった。膝から崩れ落ちてぺたんと座り込む。西園寺さんの言うことは…本当に本当なの?


「事実関係を洗い直せ。必要なら今の会社をぶっ壊せってな。それがあの古狸の爺から俺への依頼なんだ。」


「古だぬきのじじいって…?」


「勿論、渋谷源吉のことだよ。90過ぎてんのに恐ろしいじーさんだよなぁ。」


西園寺さんはクスクスと可笑しそうに笑う。


「ま、待って下さい。お祖父様は、あのときのアナフィラキシーショックが原因で心身を患って、その後は…残念ながら痴呆状態だと伺っていますが」


「それな。身内に殺されるのは御免だから、ずっとボケたフリしてんだってよ。今は豪勢なホームでのんびり暮らしてるぜ」


「本当ですか!?」


子供の頃、百田屋のお饅頭を納品しに行くといつも嬉しそうにしてくれたおじいさん。あの笑顔が百田屋のせいで永遠に失われてしまったんだとずっと悔やんでいた。……今も元気ならどんなに良いかって…何度も願って…。


おかしいな、地面が歪んでいるし西園寺さんの姿も滲んで見える。



「そうだ。喰えない古狸だろ?

死ぬ前に自分の作った会社の落とし前は自分で着けたいと、じいさんから俺にコンタクトを取ってきたんだ。お前が幸せならその依頼も断るつもりだったけどな。

…時乃、心を殺して生きるくらいなら俺に全部預けろ。お前が囚われる必要はないんだ」



地面にへたりこんで座ったままの私に、西園寺さんが手を差し出す。大きなてのひら。

その手をとる意味を考えると怖くなる。さっき屋上の淵に座ったときよりずっと怖い。


けれど、どうしても手を伸ばさずにはいられなかった。
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