ティアドロップ(短編)
「………
大切に…大切にする」
西園寺さんが目の前に膝をつき、私の手を持ち上げて頬に当てる。手の甲に感じる西園寺さんの頬はとても熱い。私の身には余る丁寧な仕草に、また世界が滲んで溶ける。
しばらくして、西園寺さんがぽつりと言った。
「手…綺麗になったな」
「少しだけ、手荒れが治っただけで」
ここ最近、毎日何度もハンドクリームを塗っていたからチクチクするような手荒れの痛みは引いていた。だけどまだあかぎれは残っているし、お世辞にも綺麗と言われる手ではない。
「いや、綺麗だ。時乃が何度も俺を思い出した証だな。
嘘をついたところで、ぐうの音も出ない証拠だろ」
西園寺さんさ指先をしげしげと眺め、満足げな笑みを浮かべている。どこか意地悪な雰囲気が漂う西園寺さんらしい表情で、何もかも見透かしてると言わんばかりだ。
「違います、手荒れが治ったのはハンドクリームが良かったからです」
「そうだな嘘つき。今はそれでいいぜ。何もかも終わったらお互い素直になれる。
…なぁ、饅頭の代わりにお前の手食って良い?うまそうなんだけど」
言うが早く、西園寺さんは大きな口を開けて手に噛みつこうとする。びっくりして慌てて手を引っ込めた。
「嫌です!急に訳のわからないこと言わないで下さい!!」
「いーじゃんケチ。どうせ俺達今は何やってもだいたいアウトなんだから、とりあえず法律の範囲内でイチャつかせてよ」
「もう……不謹慎です!!」
目を三角にして怒ると、西園寺さんが堪えかねたように吹き出して笑った。鉛のようなビルの屋上に立っているのに、からからと笑う西園寺さんは昔の雰囲気のまま。その横顔の向こうには高く青い空が広がっている。
再現なく揺れて靄のかかる視界をはらうために目を擦り、冷たく澄んだ空気を深く吸いこんだ。
Fin.


