忍君のセカンドラブ~歳の差30歳以上~
「おじちゃん。赤ちゃんの事、知っていたの? 」
「し、知らないよ。何で? 」
「うーん…」
じーっと幸喜に見つめられ、冬季はそっと目を反らした。
「雪、そろそろ帰ろう」
冬季が声をかけると、雪は愛を忍に返した。
「帽子、似合ってよかったです」
「本当に有難うございます。この子は、私の娘なんです」
「娘さん…」
「はい、正真正銘の私の娘です」
「そう…ですか…」
何かが引っかかるような目をしていた雪。
そのまま冬季と帰ってゆく雪を、忍と幸喜は見送った。
「お爺ちゃん。なんか変だと思わない? 」
「変? 何がだ? 」
「お姉ちゃんと、あのおじちゃん。夫婦って言っていたけど、違うと思うんだ」
「どうして? 」
「だって、あのおじちゃんの後ろに。悲しそうな目をしている、女の人がずっと立っていたよ。おじちゃんと同じくらいの歳かな? 」
「女の人って、どんな女の人なんだ? 」
「あのお姉ちゃんと似た感じ。でも、きっともう生きていないと思うよ」
「そっか…」
「あのおじちゃん、嘘つきだから。お姉ちゃん、騙されているんじゃないのかな? 」
騙されている。
そう聞いて忍もどこか納得できる気がした。
冬季と雪の間に、ものすごく距離感があるのを感じた。
そして冬季は愛を見て、どこか怯えたような顔をしていた。
初めて見るようではないような。
あの2人の間には、なにか秘密があるのではないかと忍は思った。
数日後。
夏樹の元に冬季が退職届をもってやって来た。
「どうしたんだ? 急に辞めるなんて」
「はい。…実家の母が、急病で倒れまして。看病しなくてはならなくなったので、金奈市を離れる事になりましたので」
「それは大変だ」
「はい、急で申し訳ございません」
「仕方がない事だから。残念だけど」
「色々とお世話になりました」
そっと頭を下げる冬季。
夏樹は頭を下げた冬季の後ろに、女性の人影を見てハッとなった。