忍君のセカンドラブ~歳の差30歳以上~
(…助けて下さい…。冬季さん、このままじゃダメになります…助けて下さい…)
小さな女性の声が聞こえて、夏樹は冬季の後ろの女性をじっと見つめた。
(私は…上野雪です。…冬季さんの妻でした。…1ヶ月前に、私はある事故に巻き込まれ命を落としたのです。…私には身寄りがおらず、冬季さんは私の葬儀を出してくれてましたが、まだ死亡届を出していません。…私の死を受け入れてくれていませんので、私はまだここにいます。…お願いします。…冬季さんを助けて下さい。…身代わりの女性を、解放してください…)
聞こえてくる女性の声に、夏樹は幸喜がよく電話で話してくれる「お姉ちゃん」を思い出した。
確か冬季と一緒の女の人がいて、その人は冬季の奥さんだと言っていた。
でも今の声が本当だとすると…。
「ねぇ上野さん。彼女はどうしたの? 」
「はい? 」
「同棲している彼女がいるって、前に話してくれたよね? 」
「ああ、彼女も一緒に連れてゆきます。もう、入籍しているので」
「そうか…。色々と大変だけど、頑張って」
「はい、有難うございます」
去り行く冬季を、夏樹はそっと見送った。
定時になり冬季がエントラスをでてくると。
「おじちゃん、こんにちは」
幸喜がいた。
「幸喜君。どうしたんだ? 何か、僕に用なの? 」
「うん。あのね、おじちゃんの後ろに、女の人がずっといるから教えてあげようと思って」
「女の人? 」
「雪さんって人。おじちゃんの事、助けてって言ってるんだ」
「雪? 何を言っているんだ? 雪は、いつも幸喜君が会っているじゃないか」
幸喜はニコとっと笑った。
「あのお姉ちゃんは、本当の雪さんじゃないでしょう? 」
「はぁ? 」
ちょっと青ざめた冬季を、幸喜はじっと見つめた。
「お姉ちゃんは雪さんじゃない。おじちゃん、何を隠しているの? 」
「隠している? 」
「うん。だって、おじちゃんだよね。赤ちゃんを、会社の待合室に置いたのは」
ギクッと、冬季がひるんだ。