君のキスが狂わせるから
 私らしい前向きな生き方を目指して、今日も自分を見つめ直すためにスタジオへと足を向ける。

 清潔な更衣室で着替えた後、湿度のある程よく熱されたスタジオに入った。
 ここに来ると、私の願っていた『私のままでいい』を許される。
 周囲に人はいるが、誰も私を値踏みしない。誰も私が何者なのか聞かない。
 それがなんとも心地いい。

 インストラクターはため息が出るほど美しいボディーラインをしていて、見ているとこちらの美観も整えられる。
 私は誘導されるままに体を動かし、心の揺れを小さくさせていった。

(今日も頑張ったよね、私。明日にはまた違う朝がくる……同じ日は2度こない。大切に生きよう)

 こんなことを考えながら1日の中で湧いた嫌な気持ちは大地へリリースし、心をゼロ視点に戻してから帰宅する。

 不思議と、この手放す習慣を身につけてからというもの、以前より悩むことが減った。
 考えすぎる私には、何よりのトレーニングだ。
 残業などで通えない日以外は、ほぼ毎日スタジオに通っている。
 大袈裟かもしれないが、ここは今や私にとって聖地なのだ。

 こんなにもヨガに私をハマらせたきっかけは、まだ連絡を待ってしまっている元彼に裏切られたことだった。

 5年も付き合っていて、当然のように結婚も考えていた。
 なのに、何も告げずに部屋を出ていかれた時の傷は想像以上に深く、時間薬以外にも何か応急手当が必要だった。

 そこで出会ったのがヨガだった……そういうことだ。
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