君のキスが狂わせるから
 触れてくる好きな人の手を、拒むなどできるはずもなかった。
 深瀬くんのキスも愛撫も、優しさそのものだったから。
 優しさを愛だと簡単に信じるほど、私も若くないつもりだったのに、その甘い刺激は私の理性を真っ白にさせてしまった。

「ふ…かせ、くん」

 やっと声に出して名を呼ぶと、彼は唇へのキスを止めてふっと視線だけ私に向ける。

「こんな時くらい下の名前で読んでくださいよ」
「……名前……」
(なんだっけ。深瀬……)
「海斗。か・い・と。ちゃんと覚えてください」

 すぐに名前を口にできなかったことが、明らかに不満げだ。

「ごめん。海斗…くん」
「謝らなくていいですから……そのまま今夜は名前で呼んで下さいね?」

 言いながら再び唇への深いキスを落とす。
 触れた熱の隙間からするりと忍び込んだ舌の感覚に気づいたけれど、予想に反して私は反射的にそれを受け入れていた。
 ぞくりと背中が粟立ち、すがるように舌先を絡めていく。

(あ…境界線、超えてる)

 微かに残った理性がそんなことを考える。
 私が受け入れているのを察知した深瀬くんは嬉しげに唇を吸い上げると、長い腕をそっとスカートの中へ入れた。

「…っ、ま…っ」

 指先がショーツに触れた途端、羞恥心で顔が耳まで熱くなっていく。

「俺のキスで感じてくれたんですね」
「言わないで…」

 どんな顔をしていいか分からなくなって首を横に向けると、深瀬くんはくすっと笑って私の耳元に唇を寄せて囁いた。

「その反応だけで俺、十分に嬉しいです」
「…っ」

 耳元にかかる熱い息が、さらに下腹部をじんわりと濡らしていく。
 それが分かったようで、深瀬くんはショーツ越しに指で敏感な場所を愛撫していった。

 長らくセクシーなこととは縁がなく、感度なんて鈍りきっていると思っていたのに。
 好きな人から触れられるというのは不思議なくらい心地良くて、自然に腰が動いてしまう。
 快感が上り詰めるほどに、自分はやっぱり女だったのだと改めて認識させられていく。

「や…か、海斗……それ以上は」

(これ以上されたら、あっさり達してしまう)

「いいんですよ。俺、今日はあなたが気持ち良くなってくれたら満足なんで」
「え?」

 視線を深瀬くんに戻すと、彼は余裕ある優しい目で私を見ている。

「正直言うと、ゴムがないんです」

(あ……流されない人なんだ)

 20代半ばの男性が、こんなにも余裕があるなんておかしい…そう思う自分もいたけれど、そういう人で良かったと思う部分もあった。

「だから遠慮しないで気持ち良くなってください」

 そう言うや否や、ショーツ越しに動かされていた指が私の中へ入ってくる。
 窮屈な苦しさと、痺れるような心地よさがせめぎ合うように私を追い込んできた。

(こ…んな、感じるとか……今までなかった)

 波のように押し寄せる快感は、少しずつ私から羞恥心すら奪っていく。

「や…怖い」
「何がですか。いっちゃうのが? それとも俺の前で恥ずかしい姿になるのが?」
「言わないで……っ」

 深瀬くんは意地悪な笑みを浮かべたまま私の中で指を自由に動かした。
 敏感な場所を探り出すと、そこを軽く押し上げていく。

「……っ」

 声も出せないほどの快感に襲われたかと思うと、私は彼の背中にぎゅっと抱きつきながら背を逸らしていた。

(……こんな……の、知らない)

 達した私は呼吸を乱してシーツの上で放心状態のまま脱力した。

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