私立秀麗華美学園
「照れてる?」

「…………」

「おーい、ゆうかー」

「照れてるよ!」


語勢激しく言い放つと、ゆうかはぐるりとこちらを向いた。
赤く染まった顔があらわになる。口はうらめしげに、への字に引き結ばれていた。


「あーあ。和人なんかに悟られちゃったー。しかも照れちゃったー」

「ちまたでツンデレって言葉流行ってますよね」

「草食系男子って言葉も流行ってますよね」

「俺、女の子の気を引こうと必死なんですけど」

「あ、そっか。そうだった。でもある女の子以外に対しては、草食系でしょ?」

「えっと、まあ」


今度は俺が照れる番だった。こういう風にはっきり、俺が溺愛しているということを、ゆうか本人が言うことはあまりなかった。


「わたしも持てるようになったかもね」

「え?」


ゆうかは花壇とその向こうの夕日の方に体を向け、俺に背中を向けたままで言った。


「愛されている自信」


風が甘い香りを運ぶ。

肩幅の狭い小さな背中。
そこに垂らされた光る髪。
姫の言葉。

なぜだか涙が出てきた。


思いは一方通行だった。
思うことで何かが激的に変化するわけでもなく。
思う理由も言葉に出来ないような不確かな物。
ただ「思っている」という、漠然とした事実だけが独り歩きしていた。

一方通行な思いはただ苦しいだけだと思っていた。
一方通行ならそれ以上何をしたって無駄で。
なんのために思うのか。
そこに行きつくのはとても怖いことだった。

だけど違った。
ゆうかの言葉で気づいたことがあった。


思って、苦しいと感じたことなんてない。
ゆうかと出会ったその日から
一方通行に思いは進んで行った。
それは苦しいことだと思っていたはずなのに。

出会わなければよかったとか好きにならなきゃよかったとか
思ったことは一度もない。


思いに応えてもらえたわけじゃない。
思いが実ったというのも違う。

なのに今自分がどうしようもなく嬉しいのは。
悲しいほど嬉しくて、涙がこらえられないのは。

愛されている自信を持てるようになったと言われたのが
愛している自信を持っていいと言われたかのようだったからだ。
< 161 / 603 >

この作品をシェア

pagetop