私立秀麗華美学園
「俺はいっつも、馬鹿みたいにひたすら、ゆうかのことだけを考えてて」


俺の呼吸と、ゆうかの瞳の色が、同じように少しずつ落ち着きを取り戻していく。


「俺の中で花嶺ゆうかが最優先事項なのは当たり前なことだし、ゆうかのことを考えるぐらいしかできることがないと思ってたから、そうしてた。

俺が思うことがあったって……ダイエット、する必要ないんだしやめろよ、なんてことは、俺が言えることじゃないって思ってた。

だってゆうかが好かれたいと思う人は俺じゃないから。
それはずっと、そうだったから。


でも今回、こうなって……何かしようと思って。
普段から周りに言われ続けてたこと、ほんのちょっと耳を傾けてみたら、思った。

出会って9年、ずっと一緒にいて。
本意だろうが不本意だろうがゆうかと俺は1対1の関係性を持っていて。

最優先事項はゆうかのまま永遠不変だけど、そこに少しだけ、ゆうかのことが好きだって事実を近づけてみた、んだと思う。


……そうしたら、ゆうかが怒ってた理由が、わかった、ような、気がしたんです、が……?」


喋っている間中固まったように動かないゆうかが心配になったので、一度言葉を切った。


「ゆ、ゆうか?」

「……この前は、謝らせてはくれなかったけど」


魔法が解けたみたいにゆうかの表情が変わっていく。泣き笑いが顔中に広がった。


「ごめん。和人をそこまで、追い詰めたかったわけじゃないの。

でも、でも……何も、言ってくれないんだもん……!」


伏せられたまつげが揺れるのを見て、手を伸ばしかけた。
代わりに傘を握る手に力を込める。

雨でぐっしょり濡れた制服の重みが、思い出したように肩にのしかかってきた。
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