私立秀麗華美学園
「もう、1学期終わってしもてんなあ」


咲が氷だけになったグラスをストローで突き刺しながら呟いた。


「もうちょっとで、高校生活も折り返しね」

「ほんとだなあ。こないだ進級したばっかだったのに」



テストが終わって、1回目の学園祭があって。

薔薇園で喧嘩したり大告白したりヤンキーと知り合ったり蜘蛛は昆虫じゃなかったりフロランタンだったり。
いろいろあった4ヶ月だった。


「今年の夏休みは、4人とも帰省するんやんな」


バカンスへ旅立つ生徒が多いのも事実だが、何せ親の会社が忙しかったり、家族が居住しているのが海外だったりで、寮で休暇を過ごす生徒の数も決して少なくはない。

咲や雄吾は休暇になると大抵実家かお互いの家へ顔を出していたが、ゆうかや俺は年に1度帰るか帰らないかといった程度だった。


「ええ。土曜になったら、月城家に。うちの両親も来て、久々に食事会するみたい」


そう。勉強を強いられない日々が始まったにも関わらず俺が普段よりもよっぽど冷静なのは、このせいだった。

3日後、ゆうかと2人で俺の実家へ行くことになっている。
兄ちゃんが待ち構えていることは気がかりだが、恐らく今年は那美さんも一緒だろうから、それは問題ない。親父や母さんと久しぶりに喋るのには疲れるだろうが、それも大した問題ではない。

問題は花嶺夫妻も一緒だということだ。


「それで、ここのところ沈んでいたわけか」


苦笑いで雄吾。俺がゆうかの父親を苦手としていることは、咲と雄吾も熟知している。


「まあ、お父さんもお母さんもその日のうちに帰るみたいだし、いいじゃない。わたしは2、3日泊まらせてもらうつもりだけど」


咲と雄吾もしかり、お互いの家に泊まることはよくあるので、うちにはゆうかや花嶺夫妻の、花嶺家には俺や両親の専用の部屋がある。

ゆうかはそのあと実家へ帰り、家族で避暑地へ。10日ほど経ったら寮へ戻ってくるということなので、その頃めがけて俺も寮へ帰るつもりだ。


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