私立秀麗華美学園
「あたしと雄吾は7月の間お互いの実家戻って、いっぺん寮戻ってくるねん。ほんで最後の2週間ぐらいに、一緒にうちの別荘行くことにしてん」


うきうきと話す咲を、雄吾は目を細めて眺めていた。今までの休暇では単身でそれぞれの実家に帰ることが多かったようだが、どうせ今の2人のことだ。寮にいようが実家にいようが別荘にいようが、今までの9年分いちゃつくんだろう。


「じゃあ結局8月半ばには、寮で集合することになるのね」

「そうやなあ。せっかくやし、遊ぼうなー!」


ハイテンションの咲に、ゆうかと俺、そして雄吾も同調する。
一度きりの高2の夏。そう思うと、これから始まる2ヶ月弱の時間の1分1秒が惜しいと思えてくる。


「……話は、変わるんだが」


飲み終えた湯のみを横へ押しやりながら、落ち着いた表情で雄吾が言った。


「この間、堂本と三松から話を聞くことができたんだ」


ゆうかが両手に持っていたティーカップを置き、咲と俺は雄吾の顔を覗き込んだ。


「個人でより、2人揃って話したいとのことだった。学園祭も終わって落ち着き、ようやく機会を設けられたんだ。
まず聞いたのは、三松の境遇のことだ。例の研究に協力することになった経緯は、恐らく堂本の時と類似したものだったのだろうと、推測していたのだが」

「堂本は実家が裕福でなく、実家への援助と引き換えて、どこぞの御家の養子にさせられたんだったわね」

「ああ」


雄吾はうなずくと、椅子の背にもたれて腕組みをした。


「ところが、三松の実家は生活に困るどころか、一人娘にバイオリンやエレクトーンの英才教育を受けさせることができるほどの金銭的余裕があったそうだ。

事が起こったのはそのバイオリンのコンクールで賞をとって数日後のこと。
見知らぬ男が家に訪れ、名刺を見せ、唐突に研究への協力を要請してきたらしい。

レッスンが忙しく、研究のことも説明はされたが怪しげだったため断ったが、数日後、三松の父親が、地方へ左遷されることに決まったそうだ。

地位も大幅に下がり、当然収入も減る。
バイオリンもエレクトーンもやめざるを得ない状況だったが、その頃再び例の男が家へ訪れ、三松家への『援助』を申し出てきたそうだ」


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