私立秀麗華美学園
長い足が2つのグラスを運んで来て、サイドテーブルの上に置いた。雄吾は自分のベッドに座って無糖の方を手に取る。近くで見ると、前髪がかなり伸びていた。


「……寂しかった、のか」

「え゙?」

「そうか。ゆうかも帰って、家で1人で寂しかったのか」

「なんで……」

「そんなにじろじろ見るな」


笑い交じりに言われ、慌てて顔を伏せる。身動きをとれずにいると、余計笑われた。


「冗談だ。ゆうか相手じゃあるまいし。おい、顔上げろ。そして片付けろ」


うー……と唸って顔を上げる。ゆうかに会えなかった落胆とめんどくささをもってベッドにしがみついたままでいると、デコピンをされた。


「……こないだ、ゆうかにもされた」

「見ていると弾きたくなるひたいだ」


でこっぱち宣告をされた俺はしぶしぶと立ち上がる。キャリーケースを開き、少しの荷物を床に並べてケースをぱたりと閉めた。

一連の作業を眺めていた雄吾は、ふと思いついたように言った。


「そうだ、片付けが終わったら、面白い話があるぞ」

「面白い話?」

「面白いというか、興味深い、と言った方が正しいな」


それ以上の説明は加えずに口は閉ざされた。
俺はまた雄吾の思惑にのり、片付けの手を早め、雄吾がアイスティーを飲み干す頃にはベッドの上に鎮座しているのだった。


「なんだ? 興味深い話って」

「お前にとっては結構な意味を持つ話かもしれないな。うん。かなり重要だ」


俺の興味だけを最大限に引き出して雄吾は再びキッチンに戻り、紅茶を淹れ直した。俺は待てを言い渡された忠犬よろしく、一言も催促せずに飼い主の帰りを待つ。


「学園に戻って来てからの出来事だ。俺がその場に居合わせたのは、偶然にしては出来過ぎたことのようにすら思えるんだが……」


俺は雄吾の淹れてくれた、ティースプーン1杯分だけの砂糖が入った飲み物を手に、確かに俺にとっては非常に重要なものとなる話に耳を傾けた。
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