私立秀麗華美学園
一歩一歩に重みを感じながら身構える。ゆうかはかなり近づいて足を止めた。

やっぱり無表情だ。だけどいつもの怒っている時の能面のような顔とは違う気がした。
激烈に怒ってくれた方がマシだ、と思った。

喉の奥を引きつらせて声を絞る。


「……知ってたんだ」

「何を?」

「ヨハンとカルラが付き合ってること」

「ああ」


少し肩が下がって、ヨハンたちが遠ざかって行った方向に視線が向く。


「カルラのことは咲からも聞いていたから。ヨハンが目で追っているのを何度か見て、そういうことか、って。付き合ってるところまでは知らなかったけど」

「そっか」


ゆうかの視線が俺の方に戻って来た。


「で」

「はい」

「「優しくて」「大人で」「一途な」カズトくんは、一体何を?」


一旦息を吸って、吐き出してから、答える。


「カルラに協力してた。ヨハンに嫉妬させようって」

「咲も絡んでる?」

「発端は咲」

「ヨハンがわたしといるのわかってたでしょ」

「わかってたけど、来た」

「なんで?」


言って数秒後、ゆうかは口を押さえた。


「……やっぱりいい、今のなし」

「うん」


俺も答えられなかったから、ゆうかがはっとするまでに数秒があったのだ。
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