私立秀麗華美学園
少し間を置いて、ゆうかがまた口を開いた。


「昨日のことだけど」

「白咲に呼び出された、は、嘘です」


ごまかす気もなし崩しにする気もなかったから先回りをして言う。

弁明すると思ったらしくゆうかは黙っていたが、俺はそれ以上何も言えなかった。


「何も言わないのね」


そう言われてもなお、俺は黙って、ゆうかを見つめていた。

やがてその顔に少しだけ表情が現れた。
眉をひそめる、そのことすらも我慢しているような。


「言葉にしなくちゃ伝わらない」


目を逸らして小声でゆうかは言った。

雨の日のことだ、と思った。伝える努力は惜しまないんじゃなかった? と責められているのだと感じる。

だけど違う。伝えることを避けているわけじゃない。伝えるのが怖いわけじゃないんだ。あの時とは違う。


せめてそれだけでも言葉にすればよかったのに、頭と口を繋ぐ回路が途中で切れてしまったかのようだった。


「どうして嘘ついたの」


業を煮やしたゆうかが顔をこわばらせて言う。


「……わからない」

「なにそれ」

「自分でも、なんで避けたりしたのか」

「……避けた? わたしと帰りたくなかったってこと?」


聞かれてしまった、と思った。
それを否定できないであろうことはなんとなく気づいていた。

そしてやっぱり、取り繕うような言葉を俺は発することができなかった。


「ふぅん」


呟くとゆうかは俺に背を向け、顔を半分だけ向けて言った。


「もういいよ」

「え?」

「いいよ、どうでも」


目を伏せて、そのままゆうかは遠ざかって行った。











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