私立秀麗華美学園
11章:嘘から始まったとしても
「Japanese people have a habit called Hanami,Cherry blossom viewing.」


英語ライティングの授業の発表で俺が言った英語はこれだけだった。


あとは、花見とは奈良時代の貴族の行事を起源とした日本独特の春の到来を寿ぐ行事である、とかそういうことを笠井が英語で喋るうしろで、フリップを出したりスクリーンをレーザーポインターで指したりしていた。


俺たちの発表は一番最後だったので、終わると多数決がおこなわれ、最優秀ペアはゆうかとヨハンのところだった。


教壇でお辞儀をする2人への拍手の中で予鈴が鳴り、昼休みになる。
弁当を出してため息をつくと、あいた前の席にどっかりと座るやつがいた。


「habitじゃねえだろ、customだろ、ぼけ」


昼飯を持っているところを見ると、まさかここで食うつもりなのだろうか。なんだ、どういうつもりだこいつは。


「授業直前にお前が渡して来た原稿、ってかぴらっとした紙切れに、habitって書いてあったけど」

「普通気づくだろまぬけ。habitじゃ日常的な趣味になんじゃねえかあほ」

「一瞬思ったけど、笠井が書いてるから、そうなのかと思って」

「気持ち悪いこと言うなばかやろ。あーあー、俺が悪かったよこれで満足かこのなすび」


……たぶん、俺が口に出してから気づいたんだな……もうちょっと素直に謝れんものだろうかと思いつつ、たった1行にメモまでもらっといて謝っていただける立場ではないよなと口を閉じる。


「大体花見って何なんだよ。テーマがチープだと内容も内容で……」


お前が決めたんだろ、と思いながらたまご焼きを咀嚼する。なにやらわかりきっていそうなことを、笠井はぶつくさ呟き続ける。


「んで? なんか用か?」

「あー……うー……え、と、ところでだな…………ゆ、ゆうかとのことなんだが……」

「ぶほっ」


思わずむせてお茶を飲む。
不意を突かれたからではなかった。笠井進のあまりの不器用さに、笑ってしまったからだった。


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