私立秀麗華美学園
「は!? てめぇ、笑ってんのか!?」

「いや……げほっ、笑って……ぶはっ」

「笑ってんじゃねえか!」


文句言いたげな笠井は口を尖らせ、なんとも不本意そうに焼きそばパンに食らいつく。


「うえー。お前、話題変えるの下手だなあ」

「素のままで会話すんの慣れてねえんだよカス」


開き直ったように紙パックのジュースを音を立てて吸い込む笠井。素か。それがお前の素かよ。


「で、ほら、答えろ。俺に聞く権利ぐれえあんだろくそったれ」


いちいち語尾につけられる暴言を差し引いても、やつからは悪意が感じられなくて、自然と苦笑いになった。

あの日のゆうかと俺のやり取りを、かげから咲と共に見ていた笠井は全て知っている。


「そうだな」




――ゆうかと静かないさかいを起こしてから、10日ほどが経った。


あれ以来実は、見た目には何一つ変わらない日々が続いていた。

朝は一緒に登校する。下校も一緒。昼食はこれまでも誘わない限り共にしてはいなかったし、夜は食堂で会えば同じテーブルに座り、会話もする。

唯一の変化はその会話が非常につまらなくなったことだった。


あの日の下校時ゆうかは何事もなかったかのように教室の外で立っていて、俺が戸口に立つとゆっくり先を歩いた。下駄箱を過ぎると横に並んで当たり障りのない話題を提供してきた。

ごく普通のクラスメート同士のような会話で、俺たちはここ最近の共にする時間を埋めてきた。


もちろん、毒舌も、皮肉も、小悪魔の微笑みも、なしだ。


2日前にしたのと大して変わらない説明をする間、笠井は黙って惣菜パンを口にしていた。


「そうか」


口の中のものを飲み下すと笠井は正面から俺を睨みつけた。


「お前はそ……」

「それでいいのかい? カズトは」


笠井の威勢を思いっきりくじいてひょいと頭を突きだして来たのは、ヨハンだった。

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