私立秀麗華美学園
13章:言われてみればクリスマス
2学期の期末テストが終わって10日も経てば冬休みだ。
だがしかしそう簡単にこの学期は終わってくれない。2学期末は年末でもある。区切りが良いということは、何かと都合良く利用されやすい。


「もうあさってなのね、クリスマスパーティー。あっという間だわ」


俺の前の席に座って雑誌か何かをめくっていたゆうかが呟いた。


「お父さんもお母さんも都合つかないっていうから忙しいなあ」

「さっきから何見てんの?」

「パーティードレス。もうちょっとじっくり迷ってから決めればよかったかなって」


2学期末に必ず行われるクリスマスパーティーは、学祭後の交流会とは規模や性質がまた違っている。

交流会が自由参加でその名の通り交流を目的としているのに対し、年末のパーティーは、生徒は強制参加、保護者始めOBなどの関係者も含め参加者数は交流会を大きく上回る。

目的は、新規の交流というよりもともと関係の深い者同士の年末の挨拶、といったところである。懇意にしている経営者陣、重役陣、一同に会することで省ける手間は相当だ。
また、見栄の張りどころ、という感も否めない。


「今年はどんな?」

「んーなんか、カジュアルな感じの」


雑誌に目をやったまま笑顔でゆうか。単に説明するのがめんどくさいようである。

去年の年末パーティーでのゆうかの衣裳は、覚えている。
シックな紺のスレンダードレスに白いもこもこのボレロを羽織っていた。落ち着いた色で体のラインに沿った形のドレスは細身で長身のゆうかにとても似合っていたが、ハイヒールがどう見ても5cm以上はあったので、気が気じゃなかった。

誰が決めたわけでもないが、この会にはどの家の御子息御令嬢も、おろしたての衣裳を身につけるのが通例になっていた。
規模や目的よりも、こっちの方が顕著な違いかもしれない。交流会では生徒はみんな制服だ。

家の権威や年々磨かれている生徒自身の価値を誇示するには格好の機会なので、当日の様子は豪華絢爛、学期予算の半分が費やされているという噂もある。


もちろん俺も、2週間ほど前に稔から連絡があったので、気に入ったスーツを何着か選んで伝えてあった。


「ところで、仕事遅いわよ日直さん」


LHRの議事録を書いていた俺の手元を見てゆうかが文句を言う。


「言われるままにやってたけど、これって学級委員の仕事じゃなかったっけ」

「そう? それじゃあわたしが笠井進くんとやりましょうか」

「気のせいでした」


マフラーも巻いて下校準備ばっちりのゆうかが笑って、雑誌を閉じた。
< 381 / 603 >

この作品をシェア

pagetop