私立秀麗華美学園
それから理事長の短い話、今学期の報告などがあってから再び椿先生が舞台上に現れ、乾杯の音頭をとった。ワインに見たてた葡萄ジュースのグラスに口をつける。

乾杯とほぼ同時にテーブルから何人かが離れた。早くも親と合流し、挨拶回りに向かうらしい。
あまりこういうことは言いたくないが、挨拶「しに行く」側となる間柄が多いと心得ているためだろう。


「先に、しばらく別行動しよっか。今年もわたし忙しいし」

「うん、了解」


真理子さんと連れ立ってゆうかも離れて行った。

ゆうかが忙しいというのは、ご両親が欠席だからだ。代わりの関係者は来ているだろうが、今日の花嶺の顔はゆうかとなる。
兄ちゃんも姉ちゃんも来てくれている俺は気楽なものだ。

さてさて。


「みーのーるー」

「はい。なんでしょう」


グラスを置き、一歩引いて斜め後ろに立っているみのるの方を振り返る。


「どういうつもりで、衣装の色を、揃えたんでしょうか」

「ああ、そのことでしたら」


突然みのるは腰を折り、深々と頭を下げた。


「まずはお詫び申し上げます。なんの相談もなしでの勝手な振る舞い、申し訳ございませんでした」

「いや、まあ、形式上はそうだけど。みのるが提案したのか?」

「提案は持田さまからでしたが。ノリノリで手筈を整えたのは私ですね」


持田、は真理子さんの名字だ。
幼馴染ではあるものの仕事上では距離をとる。


「ノリノリって」

「ぼっちゃま、私はあなたに、幸せになって欲しいわけです」


にこやかな表情を崩さず突然そんなことを言うみのるに俺は困惑した。
意図をつかめない俺をなだめるようにみのるは続ける。


「そろそろこのぐらいのことは、許されるかと思いまして」

「……目的は」

「外堀を埋めること、ですかね」


外堀、つまり周囲の人間?
そういう視線を増やしてしまいたかったということだろうか。
いずれにしても、当たり前だが俺にとっちゃこの件は不快感を伴うものではない。

気になるゆうかの機嫌の動向も悪いものではなさそうだったことだし。みのるの読んだ「そろそろ」は正確だったということだ。


「ちょっとした悪戯心ですよ」


納得せざるを、得ないのだった。
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