私立秀麗華美学園
やがて入場してくる人数も減って来てホールの扉が閉まった。
舞台上の時計を見ると時刻は6時。パーティー開始の時間だ。
その間に稔や真理子さんが合流してゆうかもそばに戻ってきた。舞台が明るくなって、ホール中のざわめきが少し小さくなる。
しばらくすると舞台中央に学園長、椿先生が現れた。白髪を綺麗に結い上げ、濃い茶色のロングタイトドレスを身につけている。ネックレスの五連ダイヤの輝きはここからでも見て取れるほどだ。
お辞儀をして、先生はマイクにそっと手を添えた。
「皆様こんばんは。本年も学園主催のクリスマスパーティーにおいでくださり真にありがとうございます……」
しばらくは大人に向けた定型の挨拶が続く。淀みない口調は耳にひっかからないだけに内容も大して入って来ない。俺たち生徒は息を潜めて例の台詞を待っていた。
「皆様はこんなお話をご存知でしょうか」
そらきた。
「あるところに、幼くして実母を亡くし、父親の再婚相手の継母と、義理の姉にあたる連れ子2人にいじめられている女の子がおりました……」
なるほど、今回はそれでしたか、と、わかりきったストーリーを流し聞きしながらあくびをこらえる。
毎度毎度、この時の椿先生はとても楽しそうだ。シンデレラはたぶん三度目。そうそうレパートリーがあるわけでもないのである。
やっとガラスの靴が持ち主の足を収め、めでたしめでたし、というところで話が締めくくられるかと思ったが、今回は少し違った。
「……とまあ、生徒の皆さんには幾度となくお話させていただいたストーリーがこれで終了するわけです」
……覚えてたんですか先生。てっきり無自覚なのだと思っていた。
隣でゆうかもふっと目線を上げた。
「同じお話を辿る中、私はいつも、得られるものはなんであるのかということを考えてきました。
いわゆる教訓です。これは受け取る人によって変わるべきものだと思うのです。
私は今日やっと、ひとつ、学ぶべき点を見つけました。
それは、彼女、シンデレラの行動力です。いじめられ虐げられる生活の中シンデレラは決してチャンスを逃しませんでした。普通は誰しも迷います。ただの小娘と一国の王子です。
自分の美貌に自信があったからではないでしょう。彼女から溢れるバイタリティ。燃えるような瞳の中に、王子は彼女の魅力を見つけたに違いありません。
皆様にとっての教訓は、どのようでしたでしょう。お聞かせ願えれば嬉しく思います。
長くなりましたが、これにて開会の言葉とさせて頂きます」
気付けば袖に消えて行く彼女に向かって、盛大な拍手が贈られていた。俺を始め生徒たちは予想だにしなかった椿先生の言葉にあっけにとられている。
教訓が、あったのか。あったのかというより、見つけられなかったのは俺たちの方で。
無駄な、長い、お決まりの文句と馬鹿にしていたことを反省しなければならないようだった。
物語を物語としてしか受け取れないようでは、まだまだらしい。
舞台上の時計を見ると時刻は6時。パーティー開始の時間だ。
その間に稔や真理子さんが合流してゆうかもそばに戻ってきた。舞台が明るくなって、ホール中のざわめきが少し小さくなる。
しばらくすると舞台中央に学園長、椿先生が現れた。白髪を綺麗に結い上げ、濃い茶色のロングタイトドレスを身につけている。ネックレスの五連ダイヤの輝きはここからでも見て取れるほどだ。
お辞儀をして、先生はマイクにそっと手を添えた。
「皆様こんばんは。本年も学園主催のクリスマスパーティーにおいでくださり真にありがとうございます……」
しばらくは大人に向けた定型の挨拶が続く。淀みない口調は耳にひっかからないだけに内容も大して入って来ない。俺たち生徒は息を潜めて例の台詞を待っていた。
「皆様はこんなお話をご存知でしょうか」
そらきた。
「あるところに、幼くして実母を亡くし、父親の再婚相手の継母と、義理の姉にあたる連れ子2人にいじめられている女の子がおりました……」
なるほど、今回はそれでしたか、と、わかりきったストーリーを流し聞きしながらあくびをこらえる。
毎度毎度、この時の椿先生はとても楽しそうだ。シンデレラはたぶん三度目。そうそうレパートリーがあるわけでもないのである。
やっとガラスの靴が持ち主の足を収め、めでたしめでたし、というところで話が締めくくられるかと思ったが、今回は少し違った。
「……とまあ、生徒の皆さんには幾度となくお話させていただいたストーリーがこれで終了するわけです」
……覚えてたんですか先生。てっきり無自覚なのだと思っていた。
隣でゆうかもふっと目線を上げた。
「同じお話を辿る中、私はいつも、得られるものはなんであるのかということを考えてきました。
いわゆる教訓です。これは受け取る人によって変わるべきものだと思うのです。
私は今日やっと、ひとつ、学ぶべき点を見つけました。
それは、彼女、シンデレラの行動力です。いじめられ虐げられる生活の中シンデレラは決してチャンスを逃しませんでした。普通は誰しも迷います。ただの小娘と一国の王子です。
自分の美貌に自信があったからではないでしょう。彼女から溢れるバイタリティ。燃えるような瞳の中に、王子は彼女の魅力を見つけたに違いありません。
皆様にとっての教訓は、どのようでしたでしょう。お聞かせ願えれば嬉しく思います。
長くなりましたが、これにて開会の言葉とさせて頂きます」
気付けば袖に消えて行く彼女に向かって、盛大な拍手が贈られていた。俺を始め生徒たちは予想だにしなかった椿先生の言葉にあっけにとられている。
教訓が、あったのか。あったのかというより、見つけられなかったのは俺たちの方で。
無駄な、長い、お決まりの文句と馬鹿にしていたことを反省しなければならないようだった。
物語を物語としてしか受け取れないようでは、まだまだらしい。