私立秀麗華美学園
「俺は最低だなあ」


メインの料理が来た頃、シンプルに出した結論はそんなもの。
今までのゆうかの心情を少しだけ理解できたつもりで言ったのだ。


「勉強はできないしやらない。運動神経ももとりたててよくはない。見目が良いわけでもなければ特技もない」

「突然どうされました?」


しらっとそんな風に言うゆうかは、料理を口に運びながら肯定の色も否定の色も見せない。


「そのくせ好きだと言う。才色兼備で好きなものもたくさん。特技もたくさんある、ゆうかを」


そう。


「何の努力もせずに好きだと言う。好かれる努力もせずに。だからーー
信じてもらえなかったんだ」


薔薇園でもゆうかは言っていた。「冗談だと思ってた」と。
好きなら、好かれたいなら、普通は近づく努力をするものだし、するべきだったんだ。すごいなあって眺めてるだけじゃなくて。


「俺はその努力をしてなかった。自分でも一切否定しないよ。俺はずっと、ずーっと、だめだめで最低なやつだった。
それは、ゆうかの側から見たら……なんていうか、嫌な余裕に見えてたのかなって、そう思ったんだけど」


気付けばゆうかはフォークとナイフを置いて、俺の話に耳を傾けてくれていた。全身で、その態度を主張しているようにさえ見えた。


「合ってる?」

「嫌な余裕、ね。
うん、そうね。大体合ってる、と言わざるを得ない、って感じ」


こんなことに、それこそ10年かかってやっと気付いた自分にため息をつきたくなったが、まずはゆうかの話を聞かなければいけなかった。


「会った頃なんて、7歳とか8歳とかだし。はっきり言って、告白とかをされたかなんて覚えてない。気付いた時にはなぜだか『和人はわたしのことが好き』っていうのが周知の事実みたいになってたわ。
だけどほんとに? って思ってた。確かにどこへ行くにも着いてくるし、楽しそうだし、かわいいねとかそういうことは言ってきてたけど、どう考えてもわたしに好かれようとしているようには見えなかったんだもの。見栄っ張りではあったけれど。
だから、それがね、言ってた通り「嫌な余裕」みたいに見えてしまっていたんだと思う。ああきっとこの人は、わたしを感情で繋ぎ止めておく必要がないんだ、って。

もちろんかなり大きくなってからだし、ぼんやりした感覚としてあっただけ。はっきりと実感があったわけではなくてね。
それでも実際、昔に戻るほど、うちから断るなんて可能性は、ほんとに小さい状況だったと思うわ」


ゆうかのご両親のことを思う。りえさんだって淳三郎さんだって、彼女のことを心の底から大事に思っていることは明白だ。そんな2人の娘であってもそんなことを考えなければならないのが、彼女の家であり、俺の家である、らしい。


「だけど、それが間違いだったことに今ではちゃんと気づけています。こんなに時間はかかったけれど。
この一年は大きかったと思うわ。振り返ってみて実感してる。何段階かを経て、わたしは愛されている自信を持つことができました。結局昔の和人はわたしを振り向かせようなんて思ってなかったけど、それも信じられないくらいの馬鹿みたいな優しさとネガティブ思考からだったみたいで。それも最近になって少し変わってきたみたいだし。
何より和人は、家の権威なんてハナから借りるつもりなかったわ。いつも、何を置いても、わたしのことを優先してただけだったーー」


一息置いて、少し前に俺が言ったのと同じ言葉を発する。


「合ってる?」


複雑怪奇に乱れた俺の感情を浄化するみたいな微笑みに、何だか少し泣きそうになった。
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