私立秀麗華美学園
「……俺は、結婚とかは、ゆうかの意見、最優先させるつもりだから」


結婚、という単語にゆうかは僅かながらも反応を見せた。
今まで避けてきた、言葉だった。


「最終的な決定は本人たちの意志に委ねることって白上先生も言ってたし」

「……あのね」

「ん?」

「もうこういうことを言っても良い頃みたいだから言うけどね」

「うん」

「やっぱり表面上は見せなくても、和人だってわかってるのよねーと、今思った。当たり前だけど」

「な、何を?」

「本来なら和人の側が、一方的に結婚でもなんでも決めちゃえるんだってこと」


和人の側、の指す意味はすぐにわかった。言わんとしていることも。それは言わせちゃいけないことのような気がしていたけれど、言っても良い頃、という表現も間違っていないように感じたので、ゆうかの言葉を遮ることはしなかった。


「客観的に見れば当たり前なのよ。だって、月城っていえば3代遡っても今の地位にいたような家柄でしょ。かたやこっちは、言ってみればただのちょっとした資産家よ。両親共に出自はいいけど、事業起こしたのうちの父親がやっとじゃない。安定も何もないわけよね」


自虐とかではない。ゆうかはただ事実を述べている。家柄にはっきりした格付けなんかが存在しているとは言えないが、それでも、花嶺という名の持ついわゆるネームバリューは、月城のそれと比較するようなものではない。


「……そんなこと、気にしてた?」

「気にしてたつもりはないんだけど……でもね、だからこそ、9年もかかっちゃったのよ」


もう10年って言った方がいいかも、と続ける。
意味深な言葉を理解するのには時間がかかった。そしてその時間をゆうかもゆっくり待っていてくれたいるみたいだった。

必要な沈黙は特別な感情を伴わずに過ぎてゆく。食器の音はピアノが消して、立ち昇るシャンパンの泡は水面で小気味良く破裂していた。
< 457 / 603 >

この作品をシェア

pagetop