私立秀麗華美学園
予想はしていたが、教室に入ると進に絡まれた。ゆうかはどうしたとやけにつっかかってくる。


「休みだってよ。風邪引いたらしくて」

「かっ……風邪か。なんだ風邪か。風邪って、お前あれだろ、どうせ土曜日に連れ回したんだろ」


ああそうか、ふられんのかなーと思ってとか言っちゃったから、こいつなりに気にしてたのか。


「んなことねーと思うけど。あとその日だけど、別にふられなかったから。ご心配おかけしました?」

「誰がてめぇの心配なんぞするかクソ野郎」

「ん? でもお前昨日会ってんじゃねえのゆうかと」

「だから心配なんぞしてねぇっつってんだろ。誰が本人に聞けるかよ」


言ってることが支離滅裂だが要旨は伝わった。気にはなるけどゆうか本人に自分から尋ねる勇気はなかったというわけだ。よくわかった。

昨日のゆうかの様子を聞いてみても、特に変わった様子はなかったということだ。

ただの風邪ならそれでいい。ゆうかのことを考えればよくはないけど。

拭いきれていない不安感が杞憂であるならば、それ以上のことはなかった。


ゆうかを一目も見てない日にしては比較的真面目に授業を受け終え、HRが終わると同時にすたこら帰宅した。着替えて、雄吾もちょうど帰ってきたので一緒に行くかという時に、内線がかかってきた。咲だった。


「あんな、帰ったらゆうかおらんかった」


しょぼくれた声がそんな事実を告げる。


「医務室におるって。連絡してたから保険医さん来て診てくれたみたいやねんけど、インフルエンザやったんやって。手紙残してくれてはる」


ここの寮生は感染症にかかった場合、すぐさま部屋を移され一切の面会が遮断される。他の生徒に移したらおおごと、当人同士の問題では済まない、というケースがあるわけだ。
人間関係のデリケート加減は人一倍なのである。病気となれば大事を取るに越したことはない。

ゆうかや咲や、俺たちの間でそういうことは考えたくはなかったが例外を作るわけにはいかないし、実際医務室で看てもらう方が安心ではあるのだ。


「そっか……会いに行くの、さすがに無理かぁ……」

「うん……一応医務室までは行ってくるわ。様子も聞いて、また連絡する」


医務室は男女寮それぞれにあるため俺が行くわけにはいかない。頼む、と言い置いて内線を切った。

例の不安は、膨らむばかりだった。単純な心配だけではない。少しずつ、ほんの少しずつ、いつもと違う事態が積み重なっている。何かとどめのようなものが、歩み寄って来ているような。

机の上に置いた、まだ一度も使えていない手袋の入った箱が目に入って、積もったもやもやが喉元を圧迫してくるようだった。
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