私立秀麗華美学園
榎本先生が教室を出て行くと、1限の先生が来るまでの間に槙野さんが興奮気味に話しかけてきた。


「すっかり驚いたわ。……それにしても月城くん、聞かされてなかったの?」


そうだ、それは確かに妙なことだった。数日前にりえさんと連絡を取ったばかりなのに。
ゆうかの体調のことで慌ただしかったせいだろうか。


「うん。本当にびっくりした。っていうか、俺もゆうかも最後に会ったの、8年前とかのはずなんだけど」

「そうなの? それにしては親しげな様子だったわね」


その時、いったん席に座った幸ちゃんが立ち上がり、俺の席の方へやってきた。


「和人くん、久しぶり! ゆきのこと、覚えてる?」


机に両手をつき、身を屈めて幸ちゃんは俺の顔を覗き込んでくる。


「覚えてるよ。っていうか、今思い出したよ。久しぶりだね」

「えーひどーい。ゆきは教室に入った途端、和人くんのこと見つけたのにぃ」


隣で槙野さんが怪訝な表情になったのがわかった。槙野さんだけでなく、おそらく教室中に俺たちのやり取りは聞こえている。


「ゆき、綺麗になったでしょ?」

「うん、そうだね。髪も伸びたし」


昔の顔ははっきり覚えていないので比較はできなかったが、幸ちゃんは可愛らしい顔立ちをしていた。やっぱりゆうかと似ている部分もある。鼻の高さとか、瞳の大きさとか。
だけどこのトーンの高い声と喋り方は、似ても似つかないな、と内心思った。


「和人くんも大人になったねぇ。ゆきびっくりしちゃった」

「そんなに変わったかな。昔から同じ顔してるってよく言われるけど」

「うそー。全然違うよう。すっごくかっこよくなったと思うよ」


ハートのつきそうな語尾と完璧な笑顔が、またもや教室の空気を凍らせる。幸ちゃんは気付いているのだろうか。

俺が言葉を返す前に1限の担当教師がやってきて、幸ちゃんはぱっと席へ戻って行った。

厄介な事態が、迫ってきているような気がした。


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