私立秀麗華美学園
1限が終わった後の休み時間、槙野さんが珍しく眉をひそめて言った。


「何なのかしら、あの子」


……確かに、さすがの俺もさっきの態度はちょっと、困った。


「常識を外れていると思うわ。誰が見たって、媚態を示しているようにしか見えなかったもの」

「従姉妹の(仮にも)婚約者に向かってあの態度とは、恐れ入るね」

「おいなんか小声で聞こえたぞ」

「従姉妹の仮にも婚約者に向かってあの態度とは……」

「わざわざ言い直さなくていいっつーの!」


当の幸ちゃんに目を向けてみれば、周囲の生徒と会話をしているようだった。気兼ねする様子もなく楽しそうに喋っている。
ただし、全員男子生徒だ。


「……お前だからってわけでも、ないのかもしれねぇけどな」


同じ光景を見て進。ヨハンの時のことを思い出せばたいして気に留めるほどのことじゃないのかもしれない、なんて思いかけたところへ、槙野さんが鋭い一言を残す。


「月城くん、気をつけた方がいいと思う。あの子きっと、ヨハンとは決定的に何かが違うもの」


女の勘は得てして当たる。

昼休みになると幸ちゃんは俺のところへ来て、食堂を案内して欲しいと言った。

食堂へ向かう間の廊下でも幸ちゃんは腕を絡めてきた。昔から甘えん坊だったような気はする。
幸ちゃんの母親は淳三郎さんの真ん中の姉で、婿養子を取った。
幸ちゃんはその一人娘なのだ。


「綺麗な校舎だね。ゆきの行ってたとこ、名門だったけどオンボロだったから」

「イギリスだったってことは、お母さんの親戚のところへ?」

「近かったけど、同居はしてなかったよ。おばあさまは偏屈者なんだもの」


幸ちゃんは「快活」という言葉がとてもよく似合った。おぼろげな記憶の中の姿にそういうイメージはあまりなかったが、俺の記憶の信憑性など怪しいものだ。

食堂をぐるりと回って席で待っていると、幸ちゃんはカルボナーラをとってきたようだった。


「なんで今笑ったの?」

「え?」


席に着くやいなや幸ちゃんは言った。


「今、にこって笑わなかった?」

「あー……食べ物の好みも、似てるのかなと思って」

「これ?」

「うん。ゆうかもカルボナーラとか、好きだから」

「ふうん。でも『食べ物の好みも』ってことはさ、他にも似てると思ったの?」

「他のやつにも言われてない? 髪型のせいもあるかもしれないけど、顔、結構似てるような……あ、ごめん、嫌だった?」

「ううん。ってゆーか、嬉しい。だって和人くんってゆうかのこと好きでしょ?」

「え。あ、えっと、うん」

「じゃあ嬉しい。えへへ。ゆきの言いたいこと、わかる?」


じゃあ、って、それは…………。

いくら鈍くて後ろ向きで臆病者の俺の頭にも、目の前で披露されている恐ろしいほどの笑顔を見れば、その答えは浮かんできた。
冷や汗が流れるような感覚を覚えつつ返事を迷いに迷っていると、業を煮やしたように幸ちゃんは自信たっぷりの煌めくまばたきと共に自ら答えを述べた。


「だってね、ゆき、最初に会った時から和人くんのこと好きだったもん」






< 474 / 603 >

この作品をシェア

pagetop