私立秀麗華美学園
「どこから話すか。そうだな、花嶺ゆうかが風邪をひいたことは想定外だったが、学園から隔離することについては前々から決まっていた。
学園から、では曖昧だな。正しくはお前から引き離すこと、だ」

「前っていつから」

「答えられないこともある。年明け前、とだけ言っておこう。月城・花嶺の両家間で合意されたことだ。そして目的は、実験だ。
10年経過してもまとまらないお前らに、業を煮やした結果だな」


やっぱり……月城と花嶺がどうという話ではなく、俺と、ゆうかの。
それなら幸ちゃんがあてがわれた理由はきくまでもない。

冷静になって考えたことは間違っていなかった。


「改めて言われると、10年って長かったんだなと思う。もしかしたらそれだけの時間を与えてくれたことに感謝するべきなのかもしれない。
でも俺は、この1年が本当に大きかったと思ってるんだ。それは親父にも母さんにも、兄ちゃんにも理解してもらえたと思ってたんだけど」

「……ああ。さすがに何一つ変わっていないとは思ってない。それは、今や月城家の者になった那美もずっと言っていたことだ。
だから言っただろう。実験だと。何もお前の”姫”をお前になんのことわりもなく変えてしまおうってほど、俺たちは横暴じゃない。お試しみたいなものだ」


言葉の最後に漏れ出たため息のようなものに、一瞬激しい憤りを感じた。
お試し…………。そんな軽い響きに、俺は何週間も苦しまされていたのか。

だけど同時に安心感を覚えたのも事実だった。姫が変わることは決定事項ではなかったみたいだし、横暴というわけでもなかったらしい。


「だったら実験は失敗だ。悪いけど、ゆうかと以上に幸ちゃんと上手くやっていくことなんてできない」

「そうらしいな。まあ、そんなことは結局どちらでもいい。別に相手が花嶺幸である必要もなかった」

「幸ちゃんじゃなくてもよかった? それはどういう」

「それはまた別としてとにかく今大事なのは、花嶺が置かれている状況だ。さらわれた理由は稔に聞いたな?」


会話の主導権が完全に向こうにあることにもやもやしたが、うなずくことしかできなかった。
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