私立秀麗華美学園
廊下に座り込んでしまった俺は、目の前の現実を受け止めきれずにいた。真理子さんに連れられてきた部屋の、扉が開いたと思ったら、ゆうかが飛び出してきた。ゆうかが? ほんとに、ゆうかが?


「…………あの」

「和人」

「えっと」

「和人」

「……ゆうか?」


背中にまわされた両手がゆっくりと解かれていく。肩にうずめていた顔がゆっくりとこちらを向いて、涙に濡れて輝いた瞳と、目が合う。


「はい」

「ほんとにゆうか?」

「はい」

「本物……?」

「本物に決まってるでしょ!」


怒ったような呆れたような、だけど嬉しそうな声。電話の向こうで聞こえた時に、全身の力が抜けた、その声。
ゆうかが目の前にいる。会いたくて、死ぬほど会いたくて、でももう、この先何年かは会えないことさえ覚悟していた、誰よりも愛しい存在。


「偽物に見える?」

「……見えない。ゆうかだ。俺が、10年間見てきた、ゆうかだ」


つやめく髪も、アーモンド型の瞳も、長いまつげも、余裕の笑みを讃えた口元も、白い喉も。間違えようがない。それでもまだ、とてもほんとのこととは思えない。


「夢とかじゃないからね」

「あれっ、声に出してた?」

「出してた。顔に」

「だって、えっ、これ、それじゃあもしかして、俺たち、元通り?」

「そうだね」

「またゆうかと、学校に通える」

「うん。一緒に行って、同じ教室で授業受けて、一緒に帰るの。あっ、でも、元通りじゃないかも」

「え?」

「前よりもっと、一緒にいる!」


超絶笑顔のゆうかに手を引っ張られて、立ち上がる。何が何だかまるでわからなかったけれど、今言ったことが本当なら、もう、なんでもいいと思った。喜ばない理由がなかった。自分の顔がどんなふうになってるのか、は、わからないけど、ゆうかが、いっそう笑顔になった。目元に浮かんだ涙も吹き飛ばすほど。自分はこの顔を見るために、今まで生きてきたんじゃないかと、思ってしまうほど。

大袈裟じゃなく、死んでもよかった。そう思ったはずなのに、次の瞬間ゆうかが言った言葉のせいで、そういうわけにはいかなくなってしまった。


「ね、和人」

「はい」

「わたしと、結婚してください」













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