私立秀麗華美学園
「…………え?」


そこには、スーツ姿の見張りなんかではなくて、なぜか、知った顔ばかりが並んでいた。

すごい勢いで戸を開け放ったのは愛さんだったようだ。晴れやかな顔で息を切らしている。その傍には今庭で逃げ回っているはずの進がぶすくれた顔で並んでいた。そして、麓の車にいるはずのみのる。ホテルで待っているはずの雄吾と咲。兄ちゃんと親父もいる。その後ろには母さんがいて、姉ちゃんまでいた。

いや、こんなとこに、堂々と並んでるのもおかしいけど、全員が全員、めちゃくちゃ嬉しそうに笑ってるのは、これは一体、どういうことだ。


「は……え、何これ、え……?」


りえさんはやっぱり目頭を押さえているし、淳三郎さんは腕組みをして座っている。ふらりと立ち上がってはみたものの、誰に説明を求めればいいのかわからない。勢ぞろいした面々の間で視線を往復させていると、みのるの後ろから、真理子さんが飛び出してきた。


「和人様」

「は、はい。はい……?」

「こちらへ」


腕を引かれるままついていく。部屋を出て、廊下を右へ。背中に人々の視線を受けながら、歩いていくと、階段があった。縁側の廊下のつきあたりに、洋風の螺旋階段。なんだこれは、と、思いながら、まだ真理子さんに腕を引かれて、それをぐるぐると、のぼっていく。


「たいっへん、ながらく、お待たせ致しました」


白い、扉の前に俺を連れてきて、両手をつかんで小学生みたいに気をつけをさせると、真理子さんは離れて行って、階段をおりてしまった。俺はもう、わけがわからなすぎて、パニック状態だった。お待たせしました? どっか行っちゃったけど? なんだこれ。でも、この状態、とりあえず、部屋に入ればいいのか? 


混乱の中に放り込まれて。その時の俺は、それを期待していたのか、していなかったのか、よくわからなかった。扉を開く前からわかっていた気もするし、完全な不意打ちだった気もする。


ドアノブを、つかんで、下におろして、そこにほんの少しだけ力を加え、扉を押した瞬間――

扉は内側からものすごい勢いで、外れて吹っ飛ぶんじゃないかと思うぐらいの勢いで、引っ張られて、部屋からは人が飛び出してきた。

人が。
女の子が。
キャラメルブラウンの髪が。

一輪だけで華やかに鮮やかに咲く薔薇みたいに、確かに俺の視界を飾って、世界を彩る。

たった、ひとりの――――


「ゆ…………」

「和人!」


部屋から飛び出してきた勢いのままで向かって来たゆうかは、足をもつれさせた俺が床に倒れるのも構わず、目一杯に伸ばした両手で抱きついてきた。
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