私立秀麗華美学園
18章:はなひらく季節
荘厳な鐘の音が抜けるような青空に響き渡った。白い鳩が放たれ、膨大な量のライスシャワーが人々の手を離れては軽やかに舞う。
笑顔の花道を歩む2人はどこかぎこちなく腕を組み、共に進む道をお互いに確かめ合っている。
あまりに大きな祝福の声に教会の尖塔は震え、ふたつずつ並んだアーチ窓のステンドグラスが、春の柔らかな陽光を反射させていた。

白という白が幸福の願いを映して輝く日。
中でもひときわ目立つ美しい白の衣裳を身につけているのは――那美さんだ。そして隣に並ぶのはもちろん、俺の兄ちゃん、月城和哉である。


「和哉さん、すっごい作り笑顔な気がするんだけど」


俺の隣で拍手をしているゆうかが言った。


「えっ、そうなん、和人のお兄さんと奥さん、恋愛結婚なんちゃうん?」

「和哉さんも、俺たちから見れば幸せそうな笑顔に見えるが」


咲と雄吾が首を傾げる。花道を歩む兄ちゃんに目を向ければ、確かに満面笑顔ではあるが、あれはゆうかの言う通り、作り笑いに間違いない。外面の作り方は進に負けず劣らず。

「恋愛結婚だし、相思相愛って言っていいはずなんだけど、兄ちゃんは那美さんといる時はいつも仏頂面なんだよ。那美さんいわく、照れてるだけらしいけど」

「こんな大勢のゲストの結婚式で仏頂面晒すわけにはいかないものね。和哉さんだって、幸せに思ってはいらっしゃるんでしょうけど。癖みたいなものよね。不器用なのよきっと」


4月の初旬。天候には恵まれた。年内に入籍した兄ちゃんと那美さんだったが、挙式は俺たちのことが全て終わってからにしたいという那美さんの要望で、今日まで延ばされたのだった。


あの日、俺とゆうかを乗せたバスは俺たちが元々いたホテルまで戻って行き、遅れて月城家、花嶺家、笠井家の人々がやってきた。
雄吾と咲は先に寮へ戻っているということだった。その日の夜は、めったにない機会ということで、それぞれの家ごとに夕食会が開かれたはずだ。はずだ、というのは、俺とゆうかだけ、ボイコットして、勝手に列車に乗り込み、寮に帰ってしまったからだけど。
どえらい規模の騙しにあったわけなのでこのぐらいは許されるかなと思ったし、何よりその日はゆうかと一緒にいたかった。


「なんかちょっとだけ、駆け落ちみたいね」


誰に許されても、許されなくても、俺たちはお互いへの気持ちを信じられるようになった時点で恋人同士になっていたので、怖いものは何もなかった。

外は真っ暗で、列車の窓ガラスに映った顔が笑う。笑った顔を見てもうひとりが笑う。
永遠に笑顔でいられそうに思えた夜だった。
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