私立秀麗華美学園
そんな俺たちは形ばかりのお叱りを受け、春休み中を寮で過ごした。今までの長期休みと同じような違うような。

こういう結末を迎えられたとはいえ、俺たちは傍目に見たらあんまり変わらなかったと思う。人前でいちゃついたりするのはお互い性に合わないみたいだったし(ちょっとだけ試してみた)、表面的な気持ちのベクトルは俺→→→→→←ゆうかぐらいなもんで、だけどそれがしっくりくる。

お互いに対して持つことのできた確信が気持ちの余裕を生んでいた。「両思い」なんて今更言葉にすると恥ずかしいけど。「好きってどういうこと?」と、ゆうかが俺に聞くことは、きっともう二度とないのだろう。



新郎新婦が花道を通り終えると、身内以外のゲストがバスで披露宴会場に向かうのを見届けた。雄吾と咲は既にバスに乗っていたけど、ゆうかは身内扱いだ。


「綺麗ねえ」


隣に立っていた姉ちゃんが那美さんを眺めながら柄にもないしんみりした様子で呟く。


「……着るご予定は」

「ないわよ。今あたし彼氏いないし」


なに。それは一大事だ。常に複数の彼氏がいる、魔性の女が売りだったのに。


「……和人はどっかあたしのこと誤解してるわね?」

「そんなことないと思うけど、えっと、まさとさんとか、なおやさんは?」

「いつの話よ。大体彼氏じゃないし。むしろあたしに彼氏なんていたのかしら?」


彼氏ナンテイタノカシラ??? 恋人の定義も人それぞれということだろうか……。


「ややっこしい関係は全部清算したのよ。たぶん。把握し得る限りは。実を言うとちょっと遊び過ぎて、そろそろ頑張んなきゃだし、お勉強」


何気に姉ちゃんと那美さんは同い年で、今年度から大学4回生だ。那美さんとは違う大学で理系の学部に通っている。昔から「手に職付けて卒業する」って言ってたなあ。


「ねえ和人、ちょっと、那美さんのご両親に挨拶して来るわね」


そう言ってゆうかは、古堀夫妻のところへ歩いて行った。穏やかそうなご両親で、似た者家族だなあと思う。俺たちのことで那美さんには随分お世話になっているとは、俺ももちろん思っているが、ゆうかはその感がいっそう強いらしい。
姉ちゃんと那美さんは、会うたび何事か囁き合っては楽しそうにしているが、今後はゆうかもその輪の中に入っていくのだろうと想像がつく。

俺たちの来るバスがロータリーに入って来たらしく、ぼんやりそちらを眺めていた時、視界の端で見覚えのある色が動いたような気がした。あの時と同じ感覚。黄色い頭。


「あれって、白上じゃない」


建物の隅の方で黄色い頭をのぞかせていた零さんを見て言ったのは、姉ちゃんだった。
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